2012年6月11日月曜日

次回の読書会は6月13日(水曜日)です


東大現代社会研究会(現社研)の皆さん、6月6日の学習会はお疲れ様でした。テーマは「日本国内の貧困問題」でしたが、なかなか見えにくい日本の貧困問題を構造的・多面的に検証することができたかと思います。特に、報告者による手製の「貧困の因果分析図」と「貧困の波及効果分析図」は非常におもしろい試みだと思います。報告者の方、お疲れ様でした。以下で、報告者のレジュメを参考に簡単なまとめをします。

 報告は「貧困問題の現状と政策――有用性のある政策」と題して行われました。まず「貧困とは何か?」と問い、単にお金がない状態を指す「貧乏」という言葉との比較をしながら、貧困の可視化を試みました。すなわち、貧困の本質は「社会的排除」であり、最終的には「自分自身からの排除」に行き着くものです。つまり、貧困は自己責任論で括られるべき概念ではなく、構造的な性格のものであり、かつ親から子へと再生産されていくような、社会問題なのです。だから、社会(さらに国家)がその解消を試みるべきであり、自己責任では解消できない社会責任的な課題と言えるでしょう。 

そして、現代日本における貧困問題が深刻化した歴史的背景として、報告者は近年の自民党時代の施策に焦点を当てます。すなわち、①経済成長優先政策(GDP至上主義)②社会保障の切り捨てと「小さな国家」化③非正規雇用の推進(労働市場の自由化)です。この三点が複雑に絡み合って、現代日本における貧困問題をより深刻なものにしていると指摘します。つまり、これまでの日本社会は、社会関係資本の活用によって「社会的包摂」を推進するのではなく、もっぱら経済成長による富の配分によって、社会保障を代替してきたと言えるのではないでしょうか。しかしながら、近年のグローバル化による資本移動の自由化と、それに伴う産業合理化によって、60年代から70年代に存在していたとされる、厚い経済的中間層が減少・崩壊することによって、内需そのものが縮小していきました。このような高度な経済成長が困難となった現状にあって、経済成長によってもっぱら担保されてきた「社会保障」そのものが崩壊することとなり、貧困問題がより深刻なものとなったと言えるでしょう。「経済」は「社会」のなかに埋め込まれている以上、「社会」の崩壊は「経済」そのものの崩壊を意味することを、私たちは忘れてはならないでしょう。

では、貧困問題を解決する具体的な政策とは何でしょうか。報告者は有用性のある政策として二点を挙げます。まず、一点目は貧困解決のための予算増額です。社会保障費を国家予算(一般会計と特別会計をあわせた予算)の30%程度を目標に引き上げることを提案します。そして、二点目は「ディーセントワーク」( Decent work、働きがいのある人間らしい仕事)の確保です。人間らしい生活を継続的に営める人間らしい労働条件を実現していくことから貧困問題の解消し、同時に労働時間の短縮などによる内需拡大も期待できるのではないかと提案します。 

当日の議論の場では、民主党政権が提示した政策にも議論が及びました。すなわち、「子ども手当」「農家戸別所得保障制度」「高校無償化」などの、所得制限なき一律支給の政策は単なるお金のバラマキにすぎないのではないか、という異論が出されました。ただし、当日の議論の場では出ませんでしたが、たとえば「子ども手当」は「子育ては公的な営み」であり、「社会が存続するためにも金持ちも貧乏人も等しく負担すべき。誰もが社会の存続から恩恵を受けている以上、誰もがそのコストを支払うべき」という、擁護派の意見もあることを付言しておきます。

 さらに、「企業の内部留保を切り崩すべきだ」との報告者の主張に対しても議論となりました。つまり、仮に内部留保を再分配することが正しいとした場合、一体誰が企業に対して内部留保を吐き出させることができるのでしょうか。財界の代行者となりつつある現・民主党政権に、はたしてそれを期待できるのでしょうか、と(ここで、財界の存在そのものを否定しているわけではない)。そこで、民主党政権に期待できないとするならば、労働組合を中心とした労働運動に期待するしかない、との意見も出されました。たとえば、2006年のフランスにおける初期雇用契約(CPE)に対して、労働組合による大規模なデモ・ストライキによって、その導入を阻止した事例などが挙げられるでしょう。

総じて、貧困問題が行き着く先は、「相互扶助などの社会的な連帯を日々の活動のなかで意味あるものへといかに根付かせていくのか」という社会的課題となるでしょう。貧困問題は奥の深い性格のものだけに、引き続き取り組んでいきたいですね。

さて、次回はカール・マルクスの『賃銀・価格および利潤』をテキストに選び読書会をおこないます。以下が詳細です。「読書会」では、参加者はあらかじめ指定された文献(ここでは、マルクスの『賃銀・価格および利潤』)を事前に読んできたうえで、参加に臨みます。指定文献については、書店もしくは図書館で事前に入手してください。なお、当日は、報告者が要約レジュメを作成・報告し、その後に参加者みんなで議論します。ただし、諸事情により、指定文献を読むことができなかった場合にも参加はもちろん可能です。奮っての参加をよろしくお願いいたします。


〇指定文献:カール・マルクス『賃銀・価格および利潤』岩波文庫版長谷部文雄訳)など)。今回はテキストの全範囲を扱います。

日時:6月13日()18:30〜
場所:キャンパスプラザB312
(現社研の部室 キャンパスプラザB棟3階)

〇参加費:無料(ただし、指定文献を購入する場合には書籍代は自己負担となります)

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 4月の新入生歓迎イベントは終了しましたが、引き続き新入会員を募集しております。一年生の方や、初めてこのブログを読んで関心を持った方など、ご自由にご参加ください。当サークルの日頃の活動の雰囲気を知りたいという方の飛び入り参加も大歓迎です。事前の登録等も必要ありません。途中入退出も自由です。お気軽に、部室にお越しください。なお、部室の場所がわからない場合には現社研のホームページ上にある連絡先にメールをしていただきますよう、お願いします。

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【文責:飯島】